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研究したい人へ


サイエンティフィック・イラストレーション(SI)を対象に研究したい方のために、研究動向について簡潔にご説明します。

SIに関する研究は科学論、芸術学、心理学、教育学など多様な分野に分散しています。 まずはどのような分野・方法で研究するかを決める必要があります。

私は科学論という分野で研究をしています。 科学論とは、科学の営みや、科学とは何かということを歴史、哲学、社会学的方法で研究する分野です。 ここでは科学論の動向を紹介します。

科学論には、科学の視覚表象論と言う分野があります。視覚表象とは、視覚的に利用 されるモノのことです。 具体的には写真やグラフ、シミュレーション画像、動画、地図、スキャン画像などを含んでいます。 サイエンティフィックイラストレーションも、科学の視覚表象の一種です。

科学論では、1970年代以降視覚表象を研究してきました。 ただし、対象となる視覚表象の種類やメディア,時代や地域,科学の分野は多様であり,研究の関心や方法論もさまざまです。 このため、研究動向に明確な流れがあるわけではなく、一言で説明することはできません。

ひとつのおおまかな傾向としては、科学者が現象を「観察」し、 それをどのように科学的知識に構成していくか、 という「科学者の実践」に関心が集まりやすいということです。

科学論では、 「科学とは何か」や「科学的知識とは何か」を問うことが主要なテーマです。 このため、科学者たちによって視覚表象がどのように作られ、どのように使われるのか研究することを通じ、 「科学的知識はどう作られているのか」を探求しようとしていると考えられます。

ほかにも数多くの研究があります。重要と思われる文献を以下に載せておきます。 ただし、様々な方法論や関心で研究されているため、視覚表象論の論文を読むには広範な知識が必要です。 私自身、まだ読めていないもの、背景知識が足りずに理解できなかった論文も多数あります。

また、日本ではサイエンティフィック・イラストレーション、あるいは視覚表象論の研究はごくわずかです。 日本語で読めるものはほとんどないと思った方がいいでしょう(ただ、博物学系の研究書・一般書は日本語でもいくつかあります)。

ほかにもこれが重要と思う文献をご存じの方がいましたら、ぜひご教示ください。

■ 視覚表象論のレビューを含む文献

  • Burri, R. V. and Dumit, J.(2008)"Social studies of scientific imaging and visualization," In Hackett, E. J., Amsterdamska, O., Lynch, M., and Wajcman, J. (Eds.) The Handbook of Science and Technology Studies Third edition, The MIT Press.

  • 橋本毅彦 (2008)『描かれた技術 科学のかたち サイエンス・イコノロジーの世界』東京大学出版会.

  • 額賀淑郎 (2002)「科学論における視覚表象論の役割--視覚知・視覚化の学説研究」 『年報科学・技術・社会』11, pp.91-115.

■ 日本語の論文・文献
  上記であげた二つの文献以外で、日本語で読めるものです。科学論の以外の論文も含みます。

  • 木村政司 (2002)「サイエンティフィック・イラストレーション」『日本大学芸術学部紀要』36, pp.29-38.  <PDFリンク>

  • 木村政司 (2003)「サイエンティフィック・イラストレーション(2)」『日本大学芸術学部紀要』38, pp.17-21. <PDFリンク>

  • 大河雅奈・加藤和人 (2010)「サイエンティフィックイラストレーション制作における協働プロセス~ 『幹細胞ハンドブック』を事例に~」『科学技術コミュニケーション』8, pp.41-55. <PDFリンク>

  • 大河雅奈・永井由佳里・梅本勝博 (2011)「知識創造としてのサイエンスイラストレーション作成 -イラストレーターへのインタビュー調査から―」『知識共創』 1, pp.Ⅲ101-110. 

  • 田中佐代子・小林麻己人・三輪佳宏 (2012)「科学者によるサイエンスイラストレーション作成の実態」 『筑波大学芸術研究報』32, pp.59-70. <PDFリンク>

■ 海外の論文・文献

  • Baigrie B. (Ed.)(1996) Picturing Knowledge: Historical and Philosophical Problems Concerning the Use of Art in Science, Toronto University Press.

  • Daston, L. and Galison, P. (2007) Objectivity, Zone Books.

  • Ford, B. J. (1993) Images of Science: A History of Scientific Illustration, The British Library Publishing Division.

  • Jones, C. A., Galison, P. (1998) Picturing science, producing art, Routledge

  • Kusukawa, S. (2012) Picturing the book of nature - image, text and argument in sixteenth-century human anatomy and medical botany, University of Chicago Press.

  • Lynch, M. and Woolgar, S. (Eds.) (1990) Representation in scientific practice, MIT Press.

  • Nickelsen, K. (2006) “Draughtsmen, Botanists and Nature: Constructing Eighteenth- Century Botanical Illustrations,” Studies in History and Philosophy of Biological and Biomedical Sciences, 37, pp. 1-25.

  • Pauwels, L. (Ed.) (2005) Visual Cultures of Science: Rethinking Representational Practices in Knowledge Building And Science Communication, Dartmouth College Press.

(最終アップロード 2013年1月22日)