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日本の動向


日本では科学専門イラストレーターの組織的な活動は欧米ほど活発ではありません。しかしながら、 いくつかの活動が別々に行われています。

管理人が把握する日本の老舗の関連団体としては 1958年に設立された日本理科美術協会が あります。 図鑑のイラストなど、学問的、科学的な説明を目指すイラストを描くイラストレーターたちが集まり、 絵画展などを開いています。

分野別に見てみると、植物画(あるいはボタニカルアート)は人気が高い分野です。 ボタニカル・アートとは、大場秀章氏の定義によると、植物学の発展を目指して描かれた、 科学的な正確さと芸術性を備えた植物のイラストレーションのことを指します。 その美しさや園芸ブームとも相まって、(学術目的というよりかは) 趣味や芸術として楽しむ人が国内に数多くいます。 「日本植物画倶楽部」や日本園芸協会の「ボタニカルアーティストの会」といった団体、 あるいは国立科学博物館が開催する植物画コンクールや日本園芸協会が主催する公募型の「JGSボタニカルアート展」など、 比較的気軽に参加できる企画もあります。

動物の分野では、戦後に科学雑誌や図鑑ブームがあった影響もあり、科学的な正確さを配慮した動物画や生態画を描くアーティストが比較的多く存在して います。たとえば日本ワイルドライフアート協会は、(必ずしも学術目的とは限らないものの)野生生物を題材とした絵を描く画家が集まり、1995年以降、 作品展を行っています。

ここ数年は日本でも科学の視覚活用に関わる新たな団体が設立されています。 2008年にはサイエンス映像学会が、 2010年には筑波大学に日本サイエンスビジュアリゼーション研究会 が設立されています。 日本でもSIに関わる活動が広がりつつあると考えられます。

教育面でも取り組みがあります。 岡山県にある川崎医療福祉大学では、2000年に医 療福祉環境デザイン学科が設置されました。 ここに、日本で唯一の大学で学べるメディカルイラストレーター養成課程があり ます。この学科では、デザインや医療福祉の科目とともに、 メディカルドローイング、コンピュータグラフィックス、メディカルイラスト、 3Dグラフィックスに関する科目が提供されています。

筑波大学芸術学部では2006年より、 科学的な内容のイラストレーションを芸術系の学生が制作するという サイエンスビジュアリゼーション演習を行っています。 2005年に科学技術振興調整費を元に設置された 北海道大学 科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)では、 イラストレーションに限ってはいないものの、デザインや映像制作の講義が実施されています。

大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台は、2007年度~2011年度の間「宇宙映像利用による 科学文化形成ユニット」を運営しました。次世代の科学映像コンテンツを制作できる人材として、 「科学映像クリエータ」を養成しました。

また、サイエンス映像学会と日本科学技術ジャーナリスト会議が共同で主催する 「科学ジャーナリスト塾」に 2008年からある「サイエンス映像制作演習」というコースでは、 映像のシナリオの書き方、ビデオカメラの撮り方、CG制作の基本などを教えています。

また東北大学ではサイエンスイラストレーションサマースクールが2010年以来、 毎年開催されています。北米の科学専門イラストレーター養成講座の教員とアメリカで 活躍するイラストレーター奈良島知行氏 (Tane+1, LLC)が講師となり、 3日間という日程で教育活動を行っています。 東北大と同時に、名古屋大学でも サイエンスイラストレーション・サマースクールが開かれ、 東北大で開催する講師と同じ講師が招かれて、講義を行っています。

このほか、植物画などの市民講座は多数みられますが、これは趣味の色合いが濃いようです。

このように、日本でも教育活動も広まりつつあります。ただし欧米と比べると、大学・大学院レベルでプロのイラストレーター・クリエーターを養成するコースはわずかしかありません。私は、この分野の認知度が低く、職業としても確立されていないためと考えています。

(有賀が知る範囲で、継続性のある活動を紹介しました。 そのほかの活動をご存知の方は是非教えてください。)

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(最終アップデート 2013年12月09日)